チームで試行錯誤する
著者: 小林 俊仁あなたはクソゲーを作りたいですか?この答えは「no」でしょう。では、あなたはクソゲーを作ったことがありますか?経験豊富なゲームクリエイターなら、この答えは「yes」でしょう。あらゆるゲームは、その企画が産まれた時には、素晴らしい希望があったはずです。でも、世の中にはクソゲーが溢れています。
いつ、何がクソゲーをクソゲーたらしめているのでしょうか?私の経験では、その大きな理由の1つは「試行錯誤ができない組織」でした。
組織の壁・職種の壁・人の壁
ゲーム開発をはじめるには、誰かの脳内イメージをチーム全員に伝えなければなりません。そのための道具が仕様書ですが、そもそも文章でゲームのおもしろさを表現しきることは非常に難しいため、その通りに作ったものがおもしろくなるとは限りません。むしろ、仕様書通りに作っただけのゲームはクソゲーだ、とも言えます。
では、ゲームをおもしろくしていくプロセスはどこにあるのでしょうか?私は、それはその後の試行錯誤の中にこそあると考えています。逆に言えば、試行錯誤ができない組織はクソゲーを改善していくことができないのです。
しかし、組織で試行錯誤する、というのは難しいことです。手戻りがあると、「クソ仕様書きやがって」とプランナーに原因を求める人がいます。「技術的にムリって警告したのに直さなかったプランナーが悪い」「リスクをちゃんと説明しなかったエンジニアが悪い」といったケンカもあります。「上の決定が悪い」などと諦めちゃった部下と、「部下が働かない」などと裸の王様になってしまう上司、といった構造もあるでしょう。これらは、組織の壁・職種の壁がチームとしての働きを阻害する例です。さらには、個々人の間にも壁が存在します。キレたり、苛立ったりして他者を制御しようとする人がいます。それに対して「あいつには言いにくいから黙っとこう」として控える人たちがいます。被害者同士で同盟を作る人もいます。
組織には、こういった様々な壁が、複雑な網の目のように入り組んでいるのです。そして「言いにくいこと」を「言いにくいこと」にしている原因はここにあります。
チームでゲームを作るには
試行錯誤とは、失敗を認めて改善を続けていくプロセスのことです。「ここがクソだからやっぱこうする」は、ゲームデザイナーにとっては自分の仕事の否定であり、プログラマーやアーティストにとっては怒りや諦めの元です。試行錯誤をするには、誰かの仕事を無にしてしまうコミュニケーションすら、積極的に取る必要があるのです。このためには、チームを、チームとして働かせるための素地を作る必要があります。
チームメンバーを尊敬し、感謝や謝罪を表現してください。日頃からそうしている人は、「やっぱりクソだからこうする」といったことも他人に受け入れてもらいやすいでしょう。間違いは、しっかりと謝って新しい意図を伝えてください。逆の立場であれば、一旦それをしっかりと受け取ってみてください。
少しだけ他者の仕事を学んでみてください。多少の知識を持つ事で、お互いの理解が増え、レッテルを貼らない会話が可能になるでしょう。
職種や部や上下関係は一旦脇に置いて、試行錯誤の単位をチームとして切り出してみてください。そしてチームの席を近づけ、会話を増やしてください。
情報を個人に留めず、公開してチームのものにしてください。進捗状況、失敗や成功、チームの取り組みなどを、壁に貼るなりwikiに書くなりしておくのもよいでしょう。勇気を持って公開すると、チームの議論の下地を作るだけでなく、思わぬところから助け舟が出てくるかもしれません。
自分の責任範囲を少しだけ広く想像し、自分なら何ができるのか、と考えてみてください。その立場こそがリーダーシップです。言われたことをやったから自分は正しい、とするのではなく、チームで価値を作り出すことにコミットしてください。
素晴らしいチームを作るのは、あなた自身なのです。