神は細部に宿りたまう

タイトルは、20世紀前半・最大の建築家であり、哲学者、芸術家、教育者であったドイツのミース・ファン・デル・ローエが好んだ言葉です。一見してシンプルな建築デザインを得意とした彼が、実は、部材の見え方からサッシの接合部デザインなど細部にまでこだわることに「デザインの意味」を込めたことを表しています。

これは、ゲームにおいても同様です。ゲームは、その進化とともに、ルールの上で競う面白さだけではなく、プレイヤーの記憶にも残る「ゲーム体験」を表現できるようになってきました。これを高いクオリティで実現するには、グラフィックやサウンドのリアルさだけでなく、ゲームデザインにおいても「細部にまでいたるこだわり」が必要です。そして、良くできたゲームほど「細部にまでいたるこだわり」が自然で、プレイヤーに意識すらさせませんが、確実に「ゲーム体験」をもたらします。

ゲーム体験を面白くするのが、「インタラクティブを実現するゲームメカニクス」です。スーパーマリオブラザーズの生みの親である宮本茂氏は、2009年6月23日の「ジブリ汗まみれ」(http://www.tfm.co.jp/asemamire/)で、次のように話しています。「自分で何か考えて、試してみて、そのフィードバックがあることが、僕(は)、インタラクティブの面白さの一つだと(思う)」

スーパーマリオブラザーズは、インタラクティブにおける面白さを最大限に引き出したゲームメカニクスの集合体です。「歩く」「走る」「ジャンプする」という単純な3つのアクションの組み合わせから「ブロックに上る」「ブロックを壊す」「敵をつぶす」などの多彩なリアクションを引き出し、「思わずジャンプを試したくなるゲーム」を実現しています。

また、マリオがジャンプする場合、頭上にブロックがあっても数ドットほどの重なりであれば自動的に避けてジャンプします。逆に、マリオがブロックに乗っている場合は、足が1ドットでもブロックと重なっていれば落ちることはありません。この他にも、様々な工夫によって、現実の物理法則とは違う「マリオ的物理法則世界」が構築されています。これこそが、「気持ち良く跳びたい!落ちるときは親指一本でもしがみつきたい!」というプレイヤーの気持ちを反映できるマリオのゲームメカニクスなのです。

インタラクティブには、「官能性」という側面もあります。これについては、ジブリの宮崎駿監督がインタビューで語っています。

「走る少年を描くときにですね、足の裏にくい込む石の痛さとか、まとわりつく服の裾とか、そういうものを感じながら、走るってことを何とか表現したいって机にかじりつくのが、ぼくらにとっての官能性です。」(「虫眼とアニ眼」新潮文庫より)

スーパーマリオブラザーズのゲーム体験の背後にも、この「官能性」があります。

プレイヤーの気持ちを反映できるゲームメカニクスは、ゲームに「リアルさ」を提供します。傑作ゲームにおける「リアル」は、「インタラクティブの面白さを支えるゲームメカニクスと「官能性」によって作られた「人間としての喜びの再現」そのものだと考えます。

これの会得には、傑作ゲームをプレイしながら解析し、そのトップゲームクリエイターの言葉を理解して「ゲームの本質」を知り、そのゲームメカニクスを自分のものにしていく努力が必要です。そして、これらの優れたゲームメカニクスを応用し、最適に組み合わせ、ゲームデザインとしてまとめることで、新しくて驚きのあるリアルなゲームの開発が可能になるでしょう。そのためには、ビデオゲームのみならず、世界における「面白い事象の仕組み」を見逃さずに察知する「ゲーム眼」こそが、ゲームクリエイターには必要だと考えています。