明日を創るゲームテクノロジーへの挑戦
著者: 大野 功二コンピュータゲームのハードは、今、新しいベクトルへと進化をはじめています。例えば、最近のゲーム機には、タッチパネルスクリーン、マイク、カメラ、傾きセンサーなど、人間の目や皮膚や耳などの感覚器官に相当するセンサー群が装備されています。私はこれを「ゲーム機のロボ化」と呼んでいます。ゲーム機だけではありません。各種スマートフォン、街角の自販機、洗濯機や冷蔵庫など、ありとあらゆるハードウェアが「ロボ化」しつつあります。
2000年頃に、ある自販機システムの開発にプログラマとして携わったことがありました。この自販機のハードウェア構成は驚くべきものでした。ドリンクを管理するための自販機内外の温度計、夜間に人が近付いたときだけ照明をオンにするための対人センサーや照度センサー、防犯センサーなど、様々なセンサーが取り付けられていたのです。また、その自販機にはタッチパネル液晶ディスプレイが取り付けられており、CM用のビデオやドリンクの購入手続きなどの画面を表示するために、当時のゲーム機に匹敵するハードウェアが搭載されていました。さらに、携帯から購入可能にするためのQRリーダー、チケットやクーポンを販売するためのプリンターまで搭載されており、まさに「ゲーム機」であり「ロボット」でした。この仕事では、自分が持つゲームデザインやプログラムのスキルが大いに役立ちました。また、その自販機のUIは、著名なゲームクリエイターの方が作ったものでした。簡単かつ簡潔な操作システムで、操作ヘルプまでありました。また、搭載された各種デバイス類を同時にリアルタイムに動作させることのできるゲームエンジンプログラミングのスキルが役に立ちました。この時、「ゲームテクノロジーはゲーム以外にも使える」ということを発見しました。そして、ゲームテクノロジーを使ったゲーム以外の研究開発も行うようになりました。
その一つの成果が、未踏プロジェクトで採択された「mirage00」(http://www.ipa.go.jp/about/jigyoseika/10fy-pro/mito/ih_2.pdf)という名の、タッチパネル液晶、振動センサー、筐体タッチセンサー、Kinect、液晶プロジェクターなどのデバイスを搭載した一人で演奏できる「楽器」です。「mirage00」は楽器として演奏できるだけでなく、映像をプロジェクターから球面鏡へ反射することで、空間内を「音」と「映像」で360°満たすことができます。この装置には、私が作った独自のゲームエンジンが搭載されており、「音」「映像」「センサーの入力データ」などをすべてリアルタイムに処理して合成しています。ゲームテクノロジーでコンテンツをコンピュータの中から現実世界へと飛び出させたのです。
「ゲームテクノロジー」の活用には、もっと大きな可能性を感じます。
例えば、自販機を使った「震災スマートステーション」の可能性です。自販機は、一説には全国に500万台以上あると言われています。一部高級機は、自分が開発に携わったようなロボ化した自販機であり、無線によってインターネットに接続されています。これら、個々の自販機のセンサー類や通信の有無状況から、震災の被害状況を町の区画単位で即座にチェックすることが可能となるのではないかと考えています。また、生き残った自販機に関しては、震災情報の配信ステーションとして利用することも可能になります。
このように、「ゲームテクノロジー」は、アートから実用まで「現実の世界を変えるテクノロジー」として十分な可能性を秘めています。これは「ゲームテクノロジーが明日を創ることができるかもしれない」と言っても良いかもしれません。これからゲームを作られる皆さんには、ぜひ、「ゲーム」を現実世界へと解き放って、「明日を創るゲーム」の開発にも挑戦していただきたいと思います。