ユーザー視点を意識しよう
著者: 木本 旬「ユーザー視点」これを常に意識しているつもりでゲーム制作に関わってきました。それでも、商品発売後に「実際にはこんな遊び方をするんだ」と感じたことが多数あります。海外版を発売した後のユーザーの反応の違いや、次回作への要望などをいただいたときに、まだまだ読みが甘かったと反省することがしきりです。
世界共通のヒット作にはゲームを続ける中での操作の熟練度のカーブと、ゲームの難易度の加速カーブのバランスがうまくマッチしているものが多いです。逆に言うと、このバランスの悪い商品は、一部のコアユーザーにしか評価されないものになってしまいます。
ゲームをプレイする理由は個人で違います。「キャラクターが好き」「世界観が好き」「シリーズものだから」などの理由で遊んでいただける方が多い場合には、最初のハードルが少し高くてもヒットする商品はたくさんあります。しかし、ゲームクリエーターとしてはこのようなユーザーとの「お約束」に甘えずにいたいものです。これに甘えては、新しいユーザーを獲得することが難しいからです。
参考に私の反省点を
プレーヤーキャラは顔だけ変更可能という仕様にした。作り手理由:3Dアクションゲームで操作するキャラクターのサイズを自由に変えられると、システムとして都合が悪かった。ユーザーの反応:自由に自分のアバターを使ってゲームしたい。体格も変えたい!
様々なステイタスの条件を設定した。作り手の理由:サバイバルの緊張感を出すために良い方法と思った。ユーザーの反応:ゲームの最初が一番難しい。進むにつれて簡単になる。楽しくなるまでの敷居が高過ぎるし、後半は退屈する。
特殊な操作性を持つゲームシステムを導入。作り手の理由:ハードの特性を活かしたかった。マニュアルやチュートリアルで説明すれば伝わると思った。ユーザーの反応:操作が面倒、すぐにゲームが楽しめない。すぐに遊びたいのに、プレイ意欲を削がれた。
これらは、企画当初は問題なく受け入れられると感じていました。また、日本ではそれなりに評価された(露出の多さが最初のハードルを下げた)ので油断していました。しかし、海外では受け入れてもらえませんでした。
また、現在担当しているデバッグ(QA)という立場から申し上げたいポイントは「バグを恐れるな」です。例えば無敵状態など、作り手が意図しなかった現象は、バグとして報告されます。しかし、これがゲーム性を大きく好転させる要素になる事例が数多く見られます。先に書いた、私がクリエーターだった時代の反省点と共通する考え方ですが、仕様書通りに作られていてもユーザーに面白いと感じてもらえなければ、商品として意味がありません。作り手として企画した通りの遊び方でなくても、ユーザーにとって面白いと思えるものはどんどん取り入れる懐の深さを期待します。それがプログラマーにとって相当な難題だとしても、です。
これらの体験から、作り手の都合による「仕様」という言い訳はユーザーには通用しないということを忘れないことが、企画段階で重要なポイントだと感じています。企画時やプロト版などでテスターの意見を取り入れるのが理想ですが、そのための予算確保の問題や、どうやれば有効な意見を拾えるか、拾った意見を活かす方法を良く考えなければならないという問題があります。なので、このようなテクニック以前に、まずは、制作者自身がユーザーとしての客観的な目線で自分のアイデアを見つめなおす姿勢が重要だと考えます。