ユーザー目線・ビジネス目線・クリエイティブ目線
著者: 齊藤 康幸私はこれまでプログラマー、プロジェクトマネージャーとしてたくさんの開発の現場を経験してきました。ゲーム制作は、チーム制作であり「プロジェクトとしての成功とは何か」を皆が共有して意識しなければ良い結果につながらないことを痛感しました。
その中で、3つの目線を持つ事が大切だと感じています。
1.ユーザー目線
ゲーム制作は、お客様に届ける商品を作ることです。「お客様の求めるものが何か」を間違えば、商品として成立しません。広い意味でのニーズだけでなく、絵の質や画面構成、操作性等に至るまで、常にお客様を意識する必要があります。
2.ビジネス目線
お客様の満足度を獲得すると同時にコストの回収も行い、ビジネスとしての成功を収めることも重要です。どれだけ素晴らしいものを作っても、コストがかかりすぎたり、求められるものから外れてしまって、ビジネスとしての成功をなし得なければ意味がありません。
3.クリエイティブ目線
商品の内容が充実するためには、より良いものを作りたいという意識はとても大切です。ただし「商品=自分の作りたいもの」と履き違えてはいけません。自分のこだわりではなく、お客様の満足度向上に注力して作業をする必要があります。
さて、これらについてイメージしやすいように例を挙げてみたいと思います。
「たくさんの攻撃バリエーションで遊べることが魅力」のゲームがあったとします。ところが、攻撃パターン作成の際に1つ1つのクオリティに必要以上にこだわってしまった結果、商品として完成したときに使える攻撃の数が少なくなってしまいました。これでは「たくさんの攻撃バリエーションで遊べることが魅力」と相反し、お客様の満足度は下がってしまうと思います。
どうして、このような結果になったのでしょうか。制作現場では、企画→モデル作成→モーション作成→プログラム制御→エフェクト作成→SE作成、という工程で制作していました。「必要以上にクオリティにこだわってしまった」のは、上流の工程です。顧客目線の品質チェックで一旦OKが出たにもかかわらず、自身の納得度が低いと更に時間を使ってしまいました。そして、下流の工程がどんどん詰まってしまいました。より上流の作業担当者が、数を用意するために充てるべき時間を削ってしまった結果、後ろの工程も圧迫され、制作数も減ってしまったわけです。
こだわりを持つことは決して悪いことではありません。ですが「そのこだわりは重要か」はプロジェクト全体の意義の上で判断しなければなりません。この例では「一つのクオリティよりも数を用意することが優先される」ということが各担当者に浸透していれば回避できたかもしれません。お客様の側に立って、この商品では何が重要かを定義し、どこにコストをかけるべきかを共有することが大切です。さらに、制作現場のみならず、パブリシティや営業との連携がうまくいって、発売後の成功があります。
制作を担うクリエイターも、自分の目先だけを考えていてはいけません。
クリエイターだからクオリティにこだわる、プロデューサーだからコストにこだわるというように、立場上どこかに偏った視点で物事を見るということは必要だと思います。むしろ、より良い商品を創り出すためには、そういった視点を持つ者同士が健全に意見を戦わせることも重要だと思います。ですが、成功を収める上で全ては密接に関わっており、協力関係の上に成り立っていることは忘れてはいけません。各自が成功のためには何が必要かを考えて動くことができれば、商品の魅力も上がり、個人としてもプロジェクトとしてもいい結果を出すことができるのではないでしょうか。