パラダイムシフトと技術
著者: 辛 孝宗ゲームとは何でしょうか?キャラクターがあり、ルールの説明があり、スクロールしながらステージやレベルをクリアしていくもの?シナリオがあり、村があり、会話をしながらアイテムを獲得し、謎を解いて進むもの?特に開発者なら無意識にこのような定義をする人も少なくないと思います。ですが、これは今まで我々が楽しんだゲーム、つまり先駆者、業界の先輩が作って来たゲームの形です。これらが、本来のゲームの定義全てをカバーするわけではないと思います。既存形式を否定するわけではありませんが、時代の流れが新しいアプローチを求めていることもやはり事実だからです。
現在は色々なところで、速いスピードでパラダイムシフトが起きている時代です。次に何が来るか、何がブームになるか、もはや予測できない状況になっています。特にモバイルデバイスの世界における変化は急激です。それでも、新しい楽しさを求める人間の本能には変わりがありません。となれば、それがいわゆる「ゲーム」か否かより、楽しいかどうかをまず考えるべきではないでしょうか。
既存概念を拡張し、「エンタテインメントアプリケーション」という考え方をする必要があります。普通のエンドユーザにとって、そのアプリが楽しければ、それが「ゲーム」であるかどうかは関係ありません。今までとは違う楽しさを創るためには、多様な職種から様々なアプローチが必要です。プログラマ、もしくは技術者の立場からだと、技術を活用することが非常に重要になってきます。ここでいう「技術」は広義のものであることに注意して下さい。ゲーム開発で最新「技術」について話す場合、CG系技術に偏りがちで、しかもAAA級ゲームにしか関係ないと思われがちです。これも重要な「技術」ですが、シンプルで簡単に見えるゲームでも、核心となる「技術」を活かした面白さをアピールすることができると思います。その「技術」には様々なものがあります。
そのためには他分野との融合も非常に重要です。ゲーム開発者カンファレンスからも有用な知識が得られますが、違う分野のセミナ等の情報からも、独創的なアイデアに繋がるヒントを得る事ができます。例えばCG系でも画像処理やシミュレーション、また、コンピュータと関係ないと思うかもしれませんが医学や建築学、心理学、生命工学、人間工学など様々な可能性にオープンマインドに接してみてはいかがでしょうか。ここで肝心なポイントは、これらの技術を、説明が要らない直感的なユーザインタフェースと併せる事で、マジックのように見せることだってできることです。今まで見たことない技術だけでなく、既に広く使われている汎用的な技術であっても、直感的なユーザインタフェースと結合すれば一般ユーザにとっては経験したことのない新しさになるかも知れません。
ただし、「知識の呪い」にかからないよう気をつけて下さい。「知識の呪い」とは、専門家としての研究にフォーカスし過ぎて、エンドユーザの視野が分からなくなることです。例えば、専門家にとっては既知の内容でも、一般の人には新しいことだって沢山あるはずです。知識に捕われ、難しいことばかり考えるのも「知識の呪い」です。目的は、意外と簡単な方法で解決できるものかも知れません。そして、新しいことを追求し、研究するのはいいですが、それを取り入れるだけで満足してはいけません。常に実用性を考えましょう。最終的に我々は研究者ではなく、ゲームクリエータですから。