テクニカルアーティストが持つ責任
著者: 亀井 敏征私はこれまで、テクニカルアーティスト(以下、TA)を4年ほど務めてきました。役割を任された当時、日本ではTAという役割についての認識がほとんど浸透しておらず、手探り状態からの出発でした。海外の情報を調査したり、業務の中で試行錯誤を繰り返し、やっと最近になってTAの役割や責任を、私なりに説明できるようになってきました。
TAの基本となる職能は、シェーダーセットアップ、リギング、ツール開発など、アートワークでありながら、テクニカルなものだと言われています。ゲーム開発ならではの役割といえます。
別の見方をした場合、TAの仕事は、開発パイプライン全体の中で、リアルタイムでのアート表現制作、アーティストのワークフローの最適化、DCCツールのカスタマイズなど、リアルタイム映像表現を作る事全般にかかわる開発者といったイメージになります。これは個人的に、個々の技能に特化した部分だけではなく、アートワーク全般にかかわることのできる、なかなか面白い職能だなと思っています。
しかし、イベントやセミナーなどでお会いするゲーム開発者の方と話をすると、TAは裏方といったイメージが強いようです。「サポート役みたいな感じかな?」と言われることも多くあります。それは、TAという職種が、比較的新しいもので役割の認識がまだ広まっていない、また「テクニカルアーティスト」という職種名からして、「テクニカル?アーティスト?」どっちかよく分からない(プログラマだったら、プログラミングする人。アーティストだったら絵を描く人。など他の職制はとてもわかりやすいですから)、などが理由かもしれません。また、TA役割として認識されたのが最近なので、これまでのゲーム開発経験や、学生時代の勉強には登場しないことも原因かもしれません。そのため、キャリアパスが見えにくい技能と思われがちです。
ただ、自身がTAの立場としては、周囲がこのような認識のままでは勿体無いと感じています。
昨今のゲーム開発で扱われるアートアセットは複雑化・巨大化してきており、ハンドリングするだけでも骨が折れるものになっています。それら大量のアセットのデータ仕様を設計し、状況に応じて改善や作り直しなどを適時判断し、仕様変更が必要ならば最適な形で変更の指示を出すのがTAです。つまり、アート面からもテクニカル面からも理解しているTAが、プロジェクトで最終出力するアートアセットの中身に責任を持つ。というのが本来の役割ではないか?と最近は感じています。その実現手段として、シェーダーセットアップ、リギング、ツール制作などの技能が必要になる、という捉え方です。
以前、私はアートディレクターとTAを兼務していた事があります。その時はアートアセットの方向付けをしつつ、プロジェクトの仕様に沿ったアセットを作成するためのツールを制作するという役割を担っていました。TAとして、とても動きやすい体制でした。最近発表されたタイトルでも、アートディレクターとTAを兼務している方が少しずつ出てきています。とても納得性のある布陣だと感じます。
TAの守備範囲は広いので、会社毎に細かい役割は違います。TA本人のモチベーションも、千差万別でしょう。ただ、アーティストが制作するアセットに対して仕様を深く理解し、表現についても責任を持つTAの必要性が以前よりも増しているのは明らかです。TAの職務とは、これに責任を持ち、プロジェクトのアートアセットを引っ張っていく先頭に立つ職種である。私は最近そう考えています。