シェイクスピアを読め!歌舞伎を観よ!
著者: 塚本 昌信ゲーム製作という範疇のみでなくおおよその物作りとは、頭の中の「これを作りたい」というイメージを如何に現実の形にしていくか?という事だと考えています。
つまり、頭で考える以上のものは形になりようがない訳で、物作りを志す方は、頭を如何に充実させておくかということが非常に大切です。
本・映画・テレビ・芝居・音楽・ライブ・スポーツ観戦といった各種エンターテインメントからクリエイティブな刺激に接し、それらに対し「自分だったらこう形にした筈」という事を毎回考察する癖をつけておく。このことが重要です。
考察した結果は蓄積され、それぞれが頭の中の引き出しとなります。その引き出しが多ければ多いほど、そのパターンが多ければ多いほど、以後のアイデア出しにおいて、既に考察済のシチュエーションとの類似パターンが増え、質・量ともにスムーズに自分のアイデアを引き出せるヒントとなるのではないでしょうか。
ジャンル問わずに様々なエンターテインメントからの刺激に触れる事が大切な訳ですが、中でもゲームクリエーターとして必ず接して欲しいと考えているものを2つ紹介します。
まず一つ目は「シェイクスピア」です。
ゲームにはシナリオや背景のストーリーが存在するものが多いです。一見シナリオと関係なさそうなパズルゲームなどにもシナリオがあったりしますからね。
シェイクスピアの全37作には、現在に至るまでの古今東西全てのストーリーの、ありとあらゆるパターンや設定がすでに記されているといわれています。つまり、今発売中の小説、放送中のドラマ、上映中の映画、公演中の舞台などすべての物語が、シェイクスピアが書いたストーリーの組み合わせや設定を替えたものでしかないと言われています。
シェイクスピアは1600年前後に活躍した作家ですから、そう言われ続けて400年強という事になります。しかも世界各国で言われ続けて400年ですから、凄くないですか?このスタンダードぶり。その間に何作品があったことやら。同時代の関が原もビックリです。家康もひれ伏すみたいな。
何回も、何回も全作品を読み返してください。たった全37作なのです。物語や構成を考える際にこれほどまでに役立つ参考書はないのですから。
2つ目は「歌舞伎」です。
敷居が高い印象かもしれません。が、是非観て欲しいのです。何度も観て欲しいのです。歌舞伎もシェイクスピアと同時期1600年前後から続いている伝統芸能です。こちらも家康がひれ伏しています。その400年強のノウハウに接してください。どうすれば人は笑うのか、泣くのか。喜怒哀楽表現へのアプローチとしての、「表情」や「間」は、エンターテインメントを提供するゲーム製作者として学ぶ点は本当に多い筈です。
2つとも古くから現在にまで続いているものです。古くから続くものはやはり続く理由があるのです。比較的に新しいエンターテインメントであるゲームは、古くから続いているエンターテインメントに学ぶ要素はまだまだ多いと言えるのではないでしょうか?
ゲーム業界は若い方が多く、また、最先端のテクノロジーに接する機会が多いため、なかなか古いものに接する機会が少ないことが現実です。が、古いものを知っておかねば、新しいことを考える土台がないとも言えます。これは歌舞伎俳優三代目市川猿之助の言葉ですが、「型を修得してこそ型破りができる。型を学ばないのは型無しなのだ」と。他ジャンルのエンターテインメントの古典には、人を楽しませる「型」がとてもプリミティブな形で分かるものが多いのです。まずは「型」知る、ところから始めては如何でしょうか?