ゲームデザイナーがアイデアに困ったときは
著者: 塩川 洋介アイデアに困ったときの対処法の話をしましょう。
ゲームデザイナーは、日々の業務の中で様々なアイデアを出す必要があります。モンスターの攻撃をどうするか、アイテムの性能を何にするか、毎日がアイデア出しの連続です。このアイデア出しという“仕事”は、実に厄介なものです。1分で思いつくこともあれば、1週間考え続けても出てこないこともあります。時間をかけたからといって、良いアイデアになるとも限りません。今日思いついたものが上手くいっても、明日また良いアイデアが出てくる保証はありません。
「ブレインストーミング」とか「単語カードに無作為な言葉を書いて、予想外の組み合わせからヒントを得る」といったアイデア発想法は数多く存在します。役立つ場合もありますが、結局は思いつきやひらめきといったランダム性の強いやり方と本質的な違いはありません。ゲームデザイナーが“仕事”として毎日“確実に”成果を出せるやり方はないものでしょうか?
「みるみるアイデアが湧き出る魔法のメソッド」といった類の特効薬は残念ながらありません。でも、「思いつきだけに頼らないアイデアの出し方」ならあります。
「自由に考えていいよ」と言われるより、お題や決まり事など何かしら“制約”があった方が考えやすいと思ったことはありませんか?これを応用します。自分であえて制約をたくさん追加していくことで、アイデアが出やすい状態を作れます。制約づけは、次の3ステップで行います。
1.制約を整理する
大抵の場合、仕事の受注時に何かしら制約があるはずです。まずはそれを洗い出して整理します。
2.制約を真似る
競合タイトルではどうなっているかを調べます。必ず傾向があるので、それを制約として加えます。
3.制約を差別化する
他と“差別化”できる特徴は何かを考え、それを制約にします。
モンスターの攻撃を例に、具体的なやり方を説明しましょう。
まず、受注時のお題が「序盤に登場するザコ」と「攻撃は、近距離を中心にしてほしい」だったとします。これはそのまま制約として使います。
次に、似たようなゲームをプレイして、「序盤のザコ」と「近距離攻撃メイン」のモンスターを探します。5体ほど分析すると、攻撃に関する共通の傾向に気づくはずです。例えば、数は平均3種類、内容は強攻撃1つと弱攻撃2つ、弱攻撃の1つが範囲攻撃で強攻撃は突進系が多い、といった傾向です。似た傾向なのは、皆が互いに真似しあったからではなく、必然性があって同じような結論に行き着いたからです。この傾向を制約として加えましょう。
最後に、他のモンスターと差別化できる要素を探します。例えば、モンスターの外見的特徴が“大きな牙”なら、それを活かす攻撃にすることを制約とします。同時期に登場する他のモンスターが魔法攻撃系なら、差別化のために物理攻撃を制約とします。どんな小さなことでも、他と違う部分は何でも特徴と捉え、制約にしていきましょう。
こうして制約を加えていくと、「大きな牙を使う物理攻撃で、近距離範囲攻撃の“何か”」というところまで選択肢を絞り込めました。まだアイデアは何も思いついていませんが、結構具体的になりました。ここまで決まれば、「これだけの制約を満たせるアイデアは、これしかないなぁ」と、最後の“何か”が自然と浮かんできます。上記の例なら、「大きな牙で周囲360度を高速で噛みつく攻撃」などに出来そうです。
攻撃を例に説明しましたが、カットシーンやレベルデザインなど、どんな仕事でもこの方法は使えます。
アイデアに困ったときは、思いつきのみに頼らず、“制約”を使いこなして乗り切りましょう。