ゲームサウンドデザインという世界
著者: 中西 哲一皆さんはゲームサウンドデザインという仕事をどう想像しているでしょうか?企画から渡されたサウンドリストに基づいて、WindowsやMacOS上で動く洗練されたGUIのオーディオアプリケーションを駆使して、ゲームに合ったサウンドを制作するお仕事……外から見える姿はそれに近いものがあるかもしれません。
もし私が「サウンドデザイン」というものを説明するならば、そこにもっと広い意味での「デザイン(設計)」が含まれたものにしたいです。
プレイヤーを操作したときにゲームから聞こえてくる音が、映像の動きにマッチングした違和感のない音を実現できていたとするならば、それはおそらく外からは見えない様々な工夫の結果であるはずです。ゲームサウンドの最大の特徴は、プレイヤーの行動による状況変化にリアルタイムに追従するインタラクティブな音響演出です。変化に追従する柔軟性を得るためには、目的の音を要素分解してデータ化を行い、プログラムで状況に応じた要素のコントロールを行い、リアルタイムに音を再構築します。1つの音は複数の音で構成されていることが珍しくありません。動きの違い、距離感の違い、材質の違い、状況の違い……選択肢の数だけデータを用意しておくこともあります。
またインタラクティブ性だけでなく、音をより自然に聴かせるための工夫も必要です。例えば足音ひとつにしても、頻繁に同じ音が繰り返されると不自然に感じます。右足と左足の音は異なりますし、同じ右足だけでも規則性を感じさせないために、予め複数のバリエーションを用意して切り替えたり、鳴らし方を微妙に変化させたりします。
さらにサウンドで使えるメモリサイズ・同時発音数・処理負荷など、プラットフォームごとに考慮すべき制約も加わってきます。最近ではリアルタイムオーディオ信号処理の利用機会も増え、音作りにプログラマが関与する割合も増えてきました。効率面から考えるとサウンドミドルウェアに搭載されている汎用化された仕組みの範囲内で音作りをする事も多いでしょう。
効果音であれ、音楽であれ、このような仕組み作りと音作りの両立により、破たんなく音響表現できる状態にすることが、サウンドデザインという仕事になります。簡略化しつつ破綻の少ない表現方法を提案することもサウンドデザイナーの腕の見せ所です。
さて、こうして音を1つ1つ丁寧に作り上げることが出来れば理想的ですが、現実的には時間や予算の制約がのしかかり、全てを平等に扱うことはできません。むしろ音に優劣を付けることも、サウンドデザインそのものであると私は捉えます。何を優先するか……「作りこむべき音」「あえて鳴らさない音」など、これらは企画から渡されたサウンドリストには乗っていないものです。その判断の拠り所はどこにあるのでしょうか?
ゲームサウンドは総合演出の要です。サウンド演出として何を伝えたいかの前に、ゲームそのものが何を伝えたいのかまで遡ることになります。サウンドデザイナーはゲームそのものを、より深く理解する必要があります。その意図を最大化することが、ゲームサウンドデザインの目指すところなのです。その上に音響演出を提案するとき、それは人の感覚・感情・心の動きまで想像した心理戦になります。期待に応えるサウンドと、良い意味でそれを裏切る意外性をバランス良く取り入れることで、狙いのシーンを印象付け、期待を上回る体験を与えたいのです。様々なアプローチの相手は「人」であり、大成功もあれば、多少の失敗もあることでしょう。だから面白くて、やめられない。
みなさんもゲームサウンドデザインという底なしの世界に、一緒に飛びこんでみませんか?