ゲームクリエイターがゲームでないものを作る時代

あなたがゲームクリエイターとして作っているものは、本当はいったい何かを考えたことがあるでしょうか。プレイヤーを楽しませるべく日々考えていることは、今作っているゲームのためだけのものなのでしょうか。

心理学の知見を紐解くと、ある行動を継続するよう人間を動機付けるためには大きく3つの要素が必要だとされています。1つはその行動をなんのために行うのかという「目的」が明確であること。2つ目は自分でその行動を選択するという「自律性」が感じられること。最後にその行動の結果、能力の向上や達成感といったフィードバックが得られること。この3つがそろっている状態というのは、実はゲームにおいては至る所に見られます。世界を救うために魔物を倒し、強い武器を手に入れ、住民の依頼を叶えていく。音楽、演出、描きこまれたデザイン、ゲームバランスなど様々な要素がプレイヤーへの適切なタイミングでのフィードバックとして機能する。ゲームを俯瞰的に見れば、この3つの要素が様々な形で実現されていることがわかります。

ゲームを「プレイヤーを動機付けるための仕掛け」とすれば、ゲームでないものにおいて同じ仕掛けを応用することが出来るのではないでしょうか。実はこうした試みは過去から様々に行われてきました。「シリアスゲーム」と呼ばれるゲームジャンルはまさにこうした試みを総称するものです。

ここ最近のトレンドとしては「ゲーミフィケーション」という言葉でこうした試みが呼ばれるようになってきています。言葉の定義には諸説がありますが、シリアスゲームも含め「利用者を動機付けるためにゲームで使われている要素をゲーム以外の領域に活用すること」がゲーミフィケーションの定義です。

「ゲームで使われている要素」とは実は非常に幅広く応用可能なものなのです。プレイヤーの状態を数値などで可視化すること、やる気がとぎれないよう目の前の目標を提示しその達成を繰り返していくことで当初の大きな目的に向かっていくこと、最初にゲームの世界に入った人が遊び方を簡単に学べるようにチュートリアルを用意すること、などのようにゲームを作る上では当たり前のように行われていること1つ1つが利用者を動機付けるゲーム要素として機能しています。そういう目でゲームを眺めれば、ゲームは利用者を動機付ける仕掛けにあふれていることがわかってくるでしょう。

こうした要素は、ゲーム以外の領域に応用しても十分に機能させることができます。ジョギングが三日坊主にならないよう、走り続けることを応援するWebサービス「Nike+」などはその典型的な事例です。表面的なゲーム要素の取り入れにとどまらない、本来ゲームが持つ利用者を動機付ける仕組みの価値にゲームクリエイターが気づけば、自身が活躍できる領域はむしろゲームの外の領域にあると考えても不思議ではありません。

動機付けを必要とする領域は様々に存在します。顧客にサービスの継続的な利用を促したい、従業員が働く動機を感じられるようにしたいという企業。ジョギングに限らずやるといいのはわかっているけど一人でやり続けるのが困難な禁煙、ダイエット、勉強。やり方次第では節電や選挙など国単位での取り組み、教育・医療や社会貢献活動といった領域にも応用が可能です。

ゲームクリエイターの可能性を是非最大限に広げて考えてみてください、あなたが活躍できる領域は想像以上に大きく、あなたを待っています。