アジャストする力
著者: 山野辺 一記ゲームシナリオライターの立場で多数のゲームタイトルに携わってきた者として、長く活躍するために、重要だと思える要素を挙げておきたい。それは「アジャストする力」である。
ゲームシナリオの多様化のスピードは、テレビドラマや舞台など、他の表現形式に比べて劇的に速いように思える。そのため、シナリオのボリュームや制作方法も、様々な形に変化し続けている。それが「アジャスト」、つまり「適合する」、「調整する」という言葉を挙げた理由である。
ゲームという表現形式は、周知のとおり、RPGや格闘、音楽、パズルなど、ジャンルがすでに多様化している。また、コンソールタイトル、アーケードからソーシャルまで、プラットホームも多様化している。加えて、ゲームタイトルごとに、セリフのボリューム、演出方法も変わる。また、コンソールタイトルのように、長期の制作期間が設けられている場合もあれば、ソーシャルゲームのように短期間で制作、リリースという場合もある。
以上のように、ゲームシナリオでは、すでに様々な要素が多様化し、そして、現在も速いスピードで変化し続けているのである。ゲームシナリオライターは、その多様化にアジャストしていかなければならない。
現状として、ゲームシナリオライターでも、多様化する要素にアジャストできない人、そして、その必要性を感じてない人が多いように感じる。
確かに、ゲームシナリオライターとして、形式へのある種のこだわりは必要である。だが、そのおかげでゲームシナリオライターとしての可能性が狭まってしまうことは、非常に残念だと思えてならない。そうならないためにも、常に多様化するゲームという表現形式に対して、柔軟な思考を維持しておくべきであろう。
すでに何をもって「シナリオである、ない」と判断するかが難しい時代となっている。ストーリーのないシナリオ、会話のないシナリオなど、クライアントからのニーズ自体も変化している。このような作業はシナリオライターの仕事ではないと割り切ることもできるが、シナリオライターとしての強みを生かすこともまた可能なのである。このような状態は、逆に言えば、シナリオライターにこそ変化を求められているともいえる。
では、アジャストする能力を高めていくためには、どうすればいいのか?まず変化を恐れないこと、そして、様々な表現形式のタイトルに挑戦し、学んでいく姿勢が大切である。
私は今まで、テレビアニメーションや舞台など、ゲーム以外の様々な表現形式に携わり、プロジェクトのメンバーからの指摘やノウハウを、謙虚に受け入れてきた。変化することに前向きであったからこそ、多様化の進むゲームシナリオにおいても、対応ができたのだと感じている。この貴重な経験を積んだからこそ、ライターにアジャストする力の必要性を挙げるのである。
無論、品質の高いシナリオを作成するためには、それ以外の能力も必要である。例えば、シナリオライターとしての基本的なテクニックである、プロット構成力とインパクトあるセリフの作成能力などを鍛えておくことは、確かに強い武器になる。
だが、アジャストする力があれば、ゲームシナリオライターとして、作家性を発揮できる可能性は、より広がるはずである。そして、それがシナリオライターとしての新しい発見、新しい発想を生み、新しい分野の開拓、そして、ゲーム業界全体の発展にも繋がるはずだと、私は考える。